お侍様 小劇場 extra

    “うまうま美味しいの秋vv” 〜寵猫抄より
 


秋だというのに冷たいスィーツが飛ぶように売れるほど、
いつまでも暑いですねぇとお天気予報のおねいさんが閉口したかと思えば、
帰りが遅くなるようでしたら
上に羽織るものを持ってお出掛けくださいねと、
一日しか違わないのに
同じおねいさんが長袖のワンピ姿で寒そうに注意していたり。
寒暖差が激しかった夏だったのを引きずってか、
虫の奏でが聞こえだしても
なかなかすんなりとは涼しくならなんだ都内だったものが、

「さすがにこうまで暦が進めばねぇ。」

秋が深まるのも道理かと、
それでも遅いめの各地の紅葉や初冠雪とやら、
テレビで中継されているのをやっとですねぇと目を細めて見やる七郎次のお膝では、

「にゃ?」

わんこのコーナーはまだなの?と
キャラメル色の綿毛のような毛並みの仔猫さんが、
同じ画面を見やっていたのだが。
ただの景色には関心が沸かぬか
そのままふるふるっと小さな頭を振るっておいで。
景色と言ったら先だってのお出掛けでも、壮大なススキの原に出かけたばかり。
勘兵衛が伝奇剣劇ものへの取材に見ておきたいと言ったのへ
ではと七郎次が以前にも運んだことのあるやや郊外の土地まで車を出した。
その折の道中の途中で見つけたのが、
もう耕作をやめた土地を使ったらしいコスモス畑で。
秋空の下、ひょろりとした茎の先に
緋色や白、少し紅の濃い赤といった可憐な花が
瑞々しくも柔らかく、だが凛と咲いて揺れているのを、

『にゃ。』
『みゃうにぃvv』

濡れた小鼻の下、小さくちょこりと収まった
そりゃあかあいらしいミツクチを薄く開け。
足元からずんと頭上という格好で見上げていた、
茶とクロ、二匹の仔猫さんたちだったのを思い出す。
小さな身で見上げたお花たちが
それぞれ気ままにゆらゆら揺れるの、
つられるように体ごと揺らして眺めていたのが、

 “可愛かったよなぁvv”

そのまま駆け出したのには大きに焦ったけれどと。
大人二人が小さな小さなやんちゃ二人を相手に、
鬼ごっこへ強制的に付き合わされたのまで思い出したところで、

 【私は秋といったら食欲の秋ですから♪】

カメラがスタジオに戻った途端、
中継先の名産だという柿だのキノコだのが籠に盛られており、
その傍らで、女性アナウンサーがお茶碗を手にしていて、

 【こぉんな大きな栗が入った栗ごはん、
  早速いただきま〜すvv】

塗り箸で結構な量の炊き込みご飯を掬い取ると、
パクリと頬張りそのままむぐむぐ堪能なさる。
愛嬌のある可愛らしいタイプのアナウンサーさん、
なので、大きめの双眸をぱっちり見開くと

 【おいひぃですvv 栗も甘くてほくほくしててvv】

そりゃあ嬉しそうにレポートなさるのへ、
スタジオが和やかに沸いたところで、
では今日のお天気ですと、
お日様のマークがばらまかれた関東地方の地図の画面に切り替わったものの、

 「にゃあ、みゃあにゃvv」

栗の黄色を見切ったものか、
あ、美味しいのだと惹かれたそのまま画面へ駆け寄った仔猫さん。
だがだが、辿り着くすんでで
お姉さんごとご馳走も画面から消えてしまい、
あれれぇ?と小首を傾げたその後ろ姿が何とも可憐で愛らしく。

「〜〜〜〜。//////////」

何て可愛いの、惚れてまうやろ〜〜〜っと。
ソファーの肘掛をついつい
どんどんどんと叩いてしまった七郎次おっ母様なのもまた
相変わらずだったり致します。

「キュウゾウは栗が好きだもんねぇ。」

ケーキのモンブランや甘く煮たのが元から好きで、
栗ごはんも、先日
七郎次おっ母様がほくほくのを炊いてくれたの食べたばかり。
その時に使った栗がまた、
彼らには特別な言われのある栗で。

『今年は大豊作だったんだよ?』

不思議な世界のお隣さん、
小さいのにどんどんとしっかり者になってゆく
キュウゾウの大好きなお兄さんが、
“いっぱい食べてねvv”と
カンナ村で収穫された秋の味覚をかかえ、お裾分けにと来てくれて。
自慢のお米に、柿やお芋に栗カボチャ、
みかんにアケビに、山ブドウに山菜にと。
畑で作ったもの以外、
山に入って歩き回って集めてくれたものだってあろうに。
こうまでいろいろな品ぞろえで集めるのはさぞや大変だったろうに、
ニコニコ笑ってそこは言わない。
それは綺麗なせせらぎで、
ゴロベエというやはり猫人のご近所さんと一緒に
大きなヤマメを吊り上げた話はしてくれたけれど。

『みゃあ?』
『そう、こ〜んなに大きかったんだよ?』

両手を左右に離して腕の尋をいっぱいいっぱい広げ、
それはもしかして鮭だったんじゃあと七郎次に思わせた武勇伝こそ話してくれたが、
つぶらな赤い双眸をキラキラさせて
ワクワク聞き入る弟分が愛しいというお顔をしただけで、
苦労話は一切しない。
疲れたろうに、危ないところへも分け入ったんだろに
ありがとうねと七郎次が突っ込んで聞けば、
大変だったけど楽しかったしと、
アハハと快活に笑った優しい子なのが
他所のお子さんながら七郎次にも誉れの子だったりし。
そんなお兄さんが持って来てくれた、
つる草で編んだ網へたっくさん詰められてた栗の実がまた大きくって。
それをキュウゾウがカブトムシではないかと思うたか、
そりゃあ警戒して見せていて。

 『…みゃあ〜?』

恐る恐るに手を出しては
丸いフォルムのせいでくるんと回ったり
ゆらゆら揺れるのをどう勘違いしたか、
びくくっと撥ねるように後じさりしていたのが
もうもう可愛くてvv

 『キュウゾウ、生の栗は見たことがないの?』

来訪すること、オオルリさんの言伝で前触れされていたため、
ではとこちらも腕を振るって、
エビフライやハンバーグ、マカロニのグラタンに。
キャベツと新じゃがのキッシュと、
前に食べておいしかったと好評だった絹ごし豆腐の卵とじ。
シュークリームやショートケーキといったデザートとは別、
お友達とお分けなさいねと
チョコレートやクッキー、キャンディもたくさん持たせた。
そんなおもてなしの夕餉の前、
仕上げがあるのでとキッチンへ引っ込んだ七郎次を
これを観ておかねば絶対後悔するぞとわざわざ勘兵衛が呼んで、
そやって見ることとなったのが、カンナ村の栗と小さな仔猫さんとの格闘劇で。
そろ〜りとかざした手を、だが、
先程そうだったよに
反りのせいで揺らんと大きく揺れた反動でぴょっと自分の側へ
素早い動きで“飛んで”来たら…と警戒してか、

 『…みゅう〜。』

宙に掲げたままの位置でひょひょいと
指揮棒でも振るように震わせたのがまた何とも可愛くて。

「〜〜〜〜。//////////」

思い出したらまたぞろ萌えそうになった七郎次だったが、

「うん、そうだね。また栗ご飯作ろうねvv」

何でないの?美味しそうだった クイごはんと、
舌っ足らずなお云いようで問うているのが聞こえたものか。
彼には金髪に白いお顔も愛くるしい坊やなキュウゾウへ、
とろけるような眼差し向けて、
きっとねと約束した、親ばかなお母様だったのでありました。




   〜Fine〜  16.10.14


 *コスモスのお花畑といや、
  立川の自然公園に出かけても良かったのですが、
  ああいう場所はペット同伴を禁止してたかもしれないので
  今回は辞めときました。
  何やら新しいご縁が結べたかもですが。(笑)

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